<練習目的>

幅広い音域をやすやすとつかめるようになるための練習曲です。指間を拡大し、手のひらの柔軟かつ迅速な開閉をマスターすること、さらには音域ごとの最適なポジションやコンフィギュレーション(手の形・位置)を学ばせるのが目的です。決してアルペジョの練習曲ではありません。アルペジョを弾かせるのはあくまでも手段です。情けないことにほとんどの解説者は手段と目的を取り違えています。ピアノの先生が「この曲はアルペジョの練習ですよ。」とか言ったら、先生を変えることを真剣に考えたほうがよいでしょう。

この目的を理解-RECONIZE-して勉強するのと、単なるアルペジョの練習として勉強するのでは大違いなので、練習を始める前に十分に意識しておいてください。

私は原典版と同時にコルトー版のショパンエチュードの楽譜を購入することを推奨しますが、その理由はこういった解説部分に書かれていることが優れているからです。でもコルトー版のこの曲の練習法は難しすぎるのでやめてください。私はコルトーの練習法でやろうとして見事に自爆しました。他人のいうことを鵜呑みにしてはいけない、というすばらしい人生経験になりました。


この練習曲がバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番のオマージュというのは誰でも知っていると思います。この曲ですね。

bwh846


これがショパンの手にかかるとこの有様です。

10-1譜例1


どう見ても音域を拡大しまくっています。本当にありがとうございました。

IMSLPから楽譜を取ってこようと思ったけど、Karl Klindworth校訂の楽譜(真っ先に出てくる)の右手の拍頭になぜかスタカートが入っていたヽ(`Д´)ノ。こんなんじゃショパンの意図した練習目的が果たせないじゃんかよー。スタカートが付いただけで何もかも台無し。ということでエキエル編ナショナル・エディションをスキャンしました。


実はこのパッセージはショパンのピアノ協奏曲第1番第3楽章などで頻出するパッセージが由来です。たとえば下記(128小節)。

10-1譜例2


赤くマーキングしたところがop.10-1と同様なパッセージですが一方通行に上下するのではなく、132という運指で折り返しが入っているので、いっそう正確なコンフィギュレーションが要求されます。op.10-1も一方通行ではなく、折り返しを加えて変奏するとよい練習になります。

ここで注目して欲しいのが、青い矢印が付いている部分です。ここは10-1の要素に手首のひねりが加わるのでさらに難度が高くなっています。

ショパンのピアノ協奏曲はこういう変なパッセージがたくさん出てきます。これがショパンの手癖-巻き込むようなアルペジョ-で、特にこの時期のショパンのピアニズムを特徴づけるパッセージになっていますので、ぜひとも注意して聞いてください。ワルツ14番でおなじみですね。

コルトーはop.10-1もこういう感じに手首のひねりを加えて練習しろ、と無茶なことをいってます。たとえば冒頭を1245と弾くのではなく2124で弾けと。ひねりが加わったアルペジョは同じ第1楽章の205小節をはじめわんさか出てきますので、協奏曲を弾く人にはいいアドバイスかもしれませんねー(棒読み)。


・・・ぶっちゃけショパン先生はこのパッセージをうまく弾けなかったんじゃないのかな?

意気込んで協奏曲を書いてみたはいいけれど、このパッセージ弾けない、とか、ミスりそうで怖い、みたいな。だから自分のために&自分の曲を弾いてもらうために練習曲を書いたのではないかと推測しています。op.10-4でも決めの部分やラストで10度アルペジョ出てきますから、この曲をさらわないでいきなり弾くのはちと難しい。(Harnoncourtは経験済み)


つづく

ここでティータイム。

BGMはもちろん宇多田ヒカル"Beautiful World"推奨。


予告2

BGM(おやくそく)

第1小節から途方にくれる初心者

まったく進まない譜読み

強行される禁じ手 -左手参加-

次々と現れる無茶なパッセージ

次第に壊れてゆくレスナーのモチベーションは

果たしてどこへと続くのか

次回、ショパンエチュード練習法op.10-1:破

さぁて、この次もサービスサービス!