基礎練習の次は演奏表現を考えます。

本来は練習を始める前に演奏表現について大まかな方針を固めておくべきですが、そうはいってもたいていの人はひととおり譜読みをしてから表現に手を付けると思うので、その前提で行きますね。今回はデュナーミク(強弱表現)を見ていきます。


1.小さな単位でのデュナーミク表現

この曲はフォルテで始まりますが、1ページ目にはそれ以外の強弱指示が出てきません。テンポ指示も最初に書かれているだけです。だからといってずっと同じ音量で、一定のテンポで弾いたらどう見ても機械的なコンピュータシーケンスです。本当にありがとうございました。(コンピュータシーケンスのように弾けたらそれはそれですごいことではありますが・・・)

じゃあどうすればいいのよ?どうすれば完成度が高い演奏が出来るのよ?という話が「Q」のメインになります。

この曲は3部形式ですが、フレーズは8小節単位で成り立っていますので、まずこの単位で考えます。ざっと思いつくことを記入した楽譜が以下です。


op10-1_第3回用1


・・・ええと(汗)。

いっぱい記入しましたが、以下で詳しく説明します。


(1)アクセントを叩かない件

各拍の頭についているアクセントは、音量の強調というよりは拍頭の強調です。この曲の音型だとどうしても親指にアクセントが付きますから、そういう風に弾かせないためにわざわざアクセント記号をつけています。アクセントを過度に強調すると音楽の流れを壊してしまいますのでほどほどに。プロでも「ガン!ガン!ガン!ガン!」と叩く人がいますが、そういう演奏は美しくないです。アルペジョの奔流の中にキラッキラッと輝きを添えるイメージがよいでしょう。ダイヤモンド、それともスワロフスキー?あなたの自由なイメージで輝きを加えてほしいです。


(2)2小節単位のデュナーミクとアゴーギクの件(ブルーの大きな<>)

2小節がパッセージの最小単位になります。アルペジョが上がるときに盛り上げて、下がるときに静まっていくイメージです。この記入はクレシェンドとディミヌエンドではなく、音楽の呼吸、あるいは音楽の幅や深さと捉えてください。<で幅が広がって、>で狭まります。<の始まる瞬間に息を吐き終わって、吸い始めるのがいいと思います。開始部分は左手でドを弾いた瞬間に「フン!」と息を吐き、右手の上昇にあわせて息を吸い始めるのです。そうすると、自然に<>のニュアンスがつきます。指の力で意識的にクレシェンド&ディミヌエンドしても、なかなかうまくいきません。こういう強弱表現を盛り込むことで、人間の生理にあった自然なフレージングを奏でることができます。

また、各小節の冒頭で瞬間に加速して拍を進行しながら少し速度を緩めるとより一層迫力があり、なおかつ聴きやすい演奏になります。とくに下がりきった4拍目ではそれとわかるくらい緩めたほうが、おさまりがよいと思います。が、やりすぎは禁物です。この速度調節をアゴーギクといいます。

2小節単位のアゴーギクとデュナーミク、考えたことがある人いますか?

あまりいないのではないかと思います。op.10-1や10-8、25-12といった曲のマスタークラスで100%指摘されるのがこのポイントです。指摘されなかった人を見たことがありません。「そんなこと考えなくても自然に出来るよ」という人は、これまで蓄積された経験からそのような表現が生み出されるのであって、けっして無から生まれているわけではありません。

日本のピアノの先生はメカニックを重視しすぎるあまり、表現力の教育が足りなさすぎるように思います。表現力は作曲者の心情を推し量ることではなく、れっきとした技術です。なので、教えてもらわないと身に付きません。


2.和声変化の表現

和声が固定されるのは最初の2小節間だけで、あとは常に変化します。特に最後の2小節は和声が大きく動きますので、聴いている人にもそれとわかるように伝える=表現する必要があります。

明らかに色合いが変わるのは7小節目です。ヘ短調の和音が出てきます。これを下属短調(サブドミナント・マイナーという呼び方がより一般的)といいます。その次の8小節目が属7和音です。和声法では主和音= I 、属和音= V 、下属和音= IV 、と書きます。

最もよくある進行は I ⇒ IV ⇒ V ⇒ I という順番になりますが、ドレミファソラシドの中で3度と4度を組み合わせた和音ばかりなのでちょっと味気ないです。ぶっちゃけソナチネみたいです。ここへスパイスを加えて I ⇒ IVm ⇒ V7 ⇒ I という進行にすると、あらステキ。IVmでドレミファソラシド以外の音(スケール外の音といいます)が加わるので印象的な響きになります。

ショパンはもちろん後者の進行を使うのですが、さすがにそのままIVmを使いません。バスにG音(ソ)を持ってきて、その上にサブドミナント・マイナーを鳴らします。コード記号で書くと、Fm/G。これは分数コードと呼ばれるものですが、属7和音の1小節前に属音(ソ)を鳴らすことで、より印象的に属7を導くことができます。このバスにF音(ファ)を持ってきても全く問題ないのですが、あえてG音を持ってくるショパンのセンスをわかってあげましょう。

⇒センスをわかってることを表現するには・・・

その2つ前の第5小節からすでに準備を始める必要があります。ソ~~~ファ・ミ・レ~と下がるバスをしっかり弾き、7小節目のソを重い音色でドスーンと鳴らします。体重をかけるイメージでまっすぐ下に向かって鍵盤を打ち鳴らしましょう。その上で、新たな気持ちで7小節目のアルペジョを奏して(意識的に顔を上げて上半身を起こすといい。自然に音色が変わります。)、8小節目をしっかり弾きます。

8小節目の4拍目でアクセントのついたDis音があるので、これはしっかり強調しますが、いきなりアクセントをつけるのはとても不自然なのでその前のレーソ-ファ-シの弾き方を工夫します。まず「レ」にアクセントをつけず、ソファシで少し速度を緩め(この3つを気持ちマルカートに弾くとか、クレシェンドするとか、いろいろやりかたがある)、おもむろにDisを弾きます。

ここまでやると、9小節目の主和音へつながる展開に説得力が出るのと同時に、「スケールが大きな演奏になりそう!」という期待感を聴衆に持たせることができます。


コンクールや試験では、エチュードの演奏は冒頭8小節と最後の8小節で8割がた評価が確定するらしいので(8-8-8の法則)、よく練習してください。特にコンクールでop.10-1を演奏する場合、冒頭がよくないとあとから盛り返すことはほとんど不可能だと思います。


ということで長くなったのであとは次回に続きますが、8小節単位の構成を意識して演奏表現を作っていけばそれほどおかしな演奏になることはないと思います。次回はもっと大きな単位での表現を検討します。


※参考までに:op.10-1の名演奏

ルイ・ロルティ(手がよく見えます)http://www.youtube.com/watch?v=tH6za0Cp4RA

マウリツィオ・ポリーニ(定番DG)http://www.youtube.com/watch?v=nMM6h9Yf348

マルタ・アルゲリッチ(in ショパコン)http://www.youtube.com/watch?v=53kUnwM93wo

アルゲリッチすごいですね。8小節目に到達する前に「え!?この人は!!」みたいな衝撃が走ります。でもちょっと弾き飛ばしすぎ・・・


つづく

ひとやすみ用BGM

予告2

BGM(おやくそく)

有害なペダル

凶暴なテンポ

枯渇したモチベーション

次々と生まれる新しい楽譜

おびただしいCD

ありとあらゆる解釈

ありとあらゆる正義

ありとあらゆる誤り

とるべき道はいくらでもあるはずだ

私達はすべてを未来にたくすことにしよう

次回、ショパンエチュードop.10-1 最終話:A

さぁて、この次もサービスサービス!


今回の次回予告はこの漫画の最終巻から引用しました。サブタイトルは勝手な想像ですw