ショパンエチュードの解説と練習法 -ルイ・ロルティの演奏を参考に-

ショパンエチュードの各曲について解説と練習法および演奏解釈の指針を書きます。
ルイ・ロルティ(Louis Lortie)が2008年に収録した映像&音源を参考とし、他のピアニストについては適宜述べていきます。
転載される場合は連絡不要ですが、出典元としてこのブログURLの記載をお願いします。

全般的な解説

ショパンの曲における付点音符の演奏法

普段どうやって付点音符を弾いてますか?

付点音符

タッカタッカ=付点音符ですが。

じつはこの表記がすでにヤバイです。できれば「タッッカタッッカ」としたいです。付点音符のリズム表現が甘い人は「タッカタッカ」で育った人だと思います。そうですわたしです(汗)。自分の付点音符の弾き方が甘いと気付いて以降、付点音符に関して神経質になりました。

付点音符で書かれていたら通常は3:1で演奏しますが、ショパンにおいては2:1になることもあります。このトピックは、それを理解してない人が多すぎるからなんとかしましょう、という問題提起です。

バロック時代だと付点音符=複付点音符として弾く、みたいなローカル・ルールがあったりして、もうわけがわからないのが付点音符の世界ですが、ここはひとまずショパンに焦点をあてます


ショパンの困った癖


ショパンは本来8分の12拍子であるべき曲を4分の4拍子と表記することが多いです。バラードや舟歌を含むノクターン系の曲ではきちんと8分の12拍子の表記を使っているので、2:1の表現は普通にできることが多いですが、4分の4拍子で書かれると困ります。楽譜の表記習慣的に三連系のパッセージに乗った付点音符は2:1で演奏するお約束になっているのですが、それにしてもわかりにくいですね。

(1)前奏曲op.28-9

prelude28-9


上の画像はミクリ版の楽譜ですが、他の多くの楽譜はこの記法になっています。なので、右手の付点音符パッセージを3:1で弾いている人が多いです。でも、それは間違いです。この付点音符は2:1で弾くべきです。根拠は下記の自筆譜です。

prelude_op28_no9

※この画像の二次使用(コピー、印刷、配布等)は厳禁です。

三連符と一致した複付点音符につづく32分音符をわざわざ後ろにずらしていますね(ずらし忘れもありますが)。付点と複付点を使い分けていることから、どう見ても複付点の場合だけずらす、ということで確定です。本当にありがとうございました。

なおナショナル・エディションでは、下記のようにこの自筆譜の記述を反映させています。

op28-9NE

※この画像の二次使用(コピー、印刷、配布等)は厳禁です。

私はナショナル・エディションの信奉者というわけではありませんが、前奏曲9番のこの記譜法は英断だと思います。

ちなみに木枯らしのエチュードも同様に2:1で弾くべきと思われます。印刷用最終稿の写しを持っていますが、ショパン本人の手によるものではないのでここでは掲載しません。


(2)バラード4番

ballad4


前奏曲9番と同じことをやってますので、前奏曲と同じように2:1で弾きます。

・・・が、ここはコーダ前で最高潮に盛り上げたいパッセージです。なので小節の冒頭の音符を長めに取って、右手=2:1:1、左手=3:1で弾くようにすると、より劇的な演奏表現になると思います。いずれにしても、右手の32分音符と左手の音は同時に弾きましょう。

ここを同時に弾かないようにするために遅く弾いて32分音符をガツンと後ろに回す人がいますが、結果としてより一層表現が盛り上がるので、ケガの功名というか、ぶっちゃけそれほど神経質にならなくてもいい部分だとは思います。

※結論

テンポが遅いop28-9はきわめて慎重に弾いて欲しいけれど、速いパッセージではあんまり気にしなくてもいいよもう(かなり投げやり)。


ツェルニー先生の例


Czerny30-2

ピアノレッスンをしている人はよくご存知の、ツェルニー30番練習曲集の2番目の曲です。

この付点(複付点)音符の弾き方ですが、左手の音と一致させていいと思います。最近の楽譜の解説だと「一致させていいよ」と書いています。しかし、ほとんどの先生は一致させないように正確に弾きなさい、と言うと思います。わたしはそういう風に習いましたし、先生たちもそう習ったからだと思います。

現実問題として、ツェルニー30番に入ったばかりのレスナーにこれを厳密に弾かせるのは困難ですし、この曲の練習目的は左手のアルペジョと右手のアーティキュレーション対比にあるわけで、付点を厳密に弾く練習曲ではありません。なので、この部分にこだわるあまり本来の練習が滞るようでは困るわけでして、両手を一致させたほうがいいと思います。

この曲を指定テンポで弾けるレベルになったら、正確なタイミングで16分音符を入れなければなりません。左手と一致させるにしても、一致させないにしても、正確に弾けることが重要です。ツェルニー30番の指定テンポはそれほど無茶なものではなく、40番を終えている人なら十分に弾ききれるレベルだと思います。ツェルニー30番は円熟期に作曲された練習曲集なので、初級者への対応がよく考えられています。その分だけ地味に難しいです。この曲集にはテクニックをそのままショパンエチュードに適用できる曲もあります。初級用の練習曲集だからといって甘く見ないで、しっかりと練習してほしいと思います。

ショパンエチュードの楽譜選択

<ショパンコンクール公認>

・ナショナル・エディション(ヤン・エキエル編:まだ新しいのでこれで録音したCDは少ない。)

・パデレフスキ版(烏合の衆編:かなり有能な烏が集合している。これで録音したCDが多い。)

<解説つきでオススメのもの>

・コルトー版(op.10/25は別々。独特なので原典版との併用必須。)

・全音原典版(op.10/25は別々。)

・ウィーン原典版(異稿の比較ができる。)

・ミクリ版(カール・ミクリ、Carl Mikuli:ショパン先生の直弟子兼秘書。Dover版がamazonで安価に入手可能。)

<無料ネット楽譜>

・IMSLP ミクリ版(上記と同じ楽譜のオンライン版)

  直リンク:op.10 op.25 新練習曲


注意点

楽譜の選択には十分に気をつかってください。何を買ったらいいかわからないときは、高くてもナショナル・エディションをおすすめします。楽譜店または通販で入手可能です(検索してください)。ナショナル・エディションをまとめ買いする場合は、右のリンク集にある直販サイトの通販をおすすめします。日本で買うよりかなり安価になります。


ショパンの楽譜は校訂した人が勝手に指示を追記していることがほとんどです。現在入手できる楽譜に書かれた追記の多くは演奏者にとって有益ですが、中には解釈を誤るようなものもあります。

またIMSLPの楽譜を使う場合は必ずミクリ(Carl Mikuri)が編集した楽譜を利用してください。ミクリの追記は非常に有用です。IMSLPにあるショパンの楽譜は、ミクリ以外は残念ながら使い物になりません。

全音は確認できるだけでショパンエチュードの楽譜を4種類も出しています(汗)。昔からある無印バージョンはすでに使いものにならないので、古い全音の楽譜(青帯)をお持ちの方は買い換えをおすすめします。

ショパンエチュードの演奏難易度

ピアノ曲の技術的難易度振り分けは非常にくだらない話題です。子供(精神的に幼稚な人)が学歴や偏差値で優越感を得たりコンプレックスに苦しむことと同じで、本質的には全く意味がありません。そんなことで悩むのは時間の無駄です。

そもそもこれを気にする人は最初から弾けるはずがないのです。たとえ技術レベルがその曲に到達していたとしても、精神的な障壁が存在したら弾けるわけがありません。加えていうならば、ピアノ曲の難易度は個人差がつきもので、とりわけショパンエチュードの体感難易度は個人差が大きいことが知られています。そのため、ある人には演奏容易に思えた曲が別の人にはものすごい難曲に感じる、ということがごく普通に発生します。なので、個人がつけた難易度は他人には通用しませんし、万人に共通するランク付けなどできるはずがありません。

しかし音楽図鑑ブログのほうも「曲名+難易度」で検索してやってくる人がものすごく多く、迷える子羊を見るような気持ちになってしまいます。ということで、ひとつの意見として全27曲の技術的難易度を私なりにまとめてみました。全曲ひと通り弾いた上で難易度を振っています。

自分の技術レベルが低かった頃は、非常にむずかしくとても弾けそうになく思えた曲があって、いわば難易度センサーが無限大に振り切れてしまったりもしたのです(笑)。近年は、「どんなに難しい曲でも必ず弾けるようになる方策があり、それを見つけ出して練習するのがピアノ学習者のやるべきこと」と思えるようになったので、難易度∞の曲はなくなりました。

以上、前おきが大変長くなりましたが、これからショパンエチュードの難易度解説を始めます。


ランクわけと時代別代表曲

ツェルニー相当 古典派代表曲 ロマン派代表曲 近現代代表曲
30番終了 モーツァルト:K.545 シューマン:飛翔 ドビュッシー:アラベスク1番
☆+ 40番中盤 モーツァルト:K.331 シューベルト:即興曲op.90-3 ドビュッシー:アラベスク2番
☆☆ 40番終了 ベートーヴェン:悲愴 シューマン:子供の情景 ラヴェル:死せる王女の
ためのパヴァーヌ
☆☆+ 50番中盤 ベートーヴェン:月光 メンデルスゾーン:
ロンド・カプリチオーソ
ラヴェル:ソナチネ
☆☆☆ 50番終了 ベートーヴェン:熱情 リスト:カンパネラ ラヴェル:水の戯れ
☆☆☆+ 60番 ベートーヴェン:皇帝 シューマン:トッカータ バラキレフ:イスラメイ

代表曲に異論のある方もいらっしゃると思いますが、とりあえず。アラベスク1番はツェルニー30番に入る前でも弾けますね。


op.10

番号 難易度 コメント
☆☆☆ 局地的に難しい箇所があります。
☆☆☆+ どうしても弾けない人がいます。
☆☆ 中間部以外は☆なので、ツェルニー30番で不足しがちな成分を補いましょう。
☆☆☆ 個人差があります。
☆☆ 個人差があります。
技術の曲じゃないので。
☆☆+ 個人差が大きい曲ですが、簡単という人はあまりいません。バラード2番コーダに登場。
☆☆+ 試験やコンクールの定番のメカニカルな練習曲です。
ツェルニー30番は左手の練習が少ないのでこの曲は大変。だからこそ練習します。
10 ☆+ 技術はラクだけどプロでも変な演奏をする危ない曲です。
11 ☆☆ エオリアンハープを仕上げてからでないと無理です。
12 ☆+ 弾きやすく、知名度も高くてコスパ抜群。9番をさらった後でどうぞ。


op.25

番号 難易度 コメント
☆+ 手が広がらない人は毎日これを弾きましょう。
個人差がありますが、ツェルニー30の20番目の次に弾けます。
☆☆ トリルのところ以外はさほど難しくありません。
☆☆+ テンポ次第です。高速ノーミス演奏は困難です。
☆☆+ 中間部がかなり難しいです。
☆☆☆+ 私が習った浜野先生はこれが弾きやすいそうです。
☆☆ 左手のルバート技術の曲です。
☆☆☆ 曲調と裏腹に難曲。+をつけるか迷うくらいです。
☆☆ 手が開かない人は非常に演奏困難です。
10 ☆☆ 中間部が難しいです。1-3や1-4でオクターブが取れない人は☆☆+
11 ☆☆☆ 25-6ほどじゃないので。
12 ☆+ ツェルニー30番終えたばかりでは弾けないけれど、40番を終えた後だと物足りない。


新練習曲(楽譜によって順番が違うので調性を参考に確認してください。)

番号 難易度 コメント
ヘ短調。ツェルニー30番を終えたらこういうクロスリズムに挑戦しましょう。
変イ長調。これもクロスリズム。左手の音域が広いので、右手ばかり見ているとミスします。
☆+ 変ニ長調。ショパンらしい才気が感じられる曲。

調性から見るショパンエチュードOp.10とOp.25の全体像

作品10

最初に結論を書いてしまいますが、この曲集は平均律集を目指したけどうまくいかなかったので、なんとか連続演奏だけは達成した、というところだと思います。つまりop.10はバッハの平均律集と同じように長調短調の2曲ペアを連続して構成する予定だったと思いますが、7番と8番が長長ペアになってしまって計画通りにいかなかったのではないかと推測します。

下記のデータは誰でもすぐ気づくことですが、ショパンの失敗に関して論じている人が少ない(いない?)ので改めて書いておきます。

順番 曲調の対比 調性 調関係 1つ前との差 コンセプト合致
1-2 大アルペジョ vs. 半音階 ハ長調 ⇒ イ短調 平行調 なし ( ゜д ゜)ウマー
3-4 遅くカンタービレな曲
 vs. 急速な常動曲
ホ長調 ⇒ 嬰ハ短調 平行調 長3度上 ( ゜д ゜)ウマー
5-6 軽快な2拍子舞曲
 vs. 遅く鎮静的な曲
変ト長調 ⇒ 変ホ短調 平行調 長2度上 ( ゜д ゜)ウマー
7-8 トッカータ vs.
 ツェルニー的アルペジョ
ハ長調 ⇒ ヘ長調 下属調 減5度 (+д+)マズー
9-10 憂鬱な旋律
 vs. 優美な旋律
ヘ短調 ⇒ 変イ長調 平行調 4度上の短調 ( ゜д ゜)ウマ?
11-12 ハープの模倣 vs.
 ツェルニーの模倣
変ホ長調 ⇒ ハ短調 平行調 長1度下の長調 ( ゜д ゜)ウマー


このような状態で、2曲ずつ長短の順で平行調カップルになっていますが、7-8で関係が崩れてしまいます。どうしてこうなったのでしょうか。なぜ8番をイ短調で書かなかったのでしょうか。これに関してはショパン先生を小1時間問い詰めたいところです。

7番にも原因の一端があります。よりによって5番に対して減5度。最悪の関係です。6番は最後に転調して変ホ長調で終わるため、7番を変ロ長調で開始すれば連続演奏的に容易につながります。しかし7番をハ長調で書いてしまったため、素直にはつながらなくなってしまいました。

ここでショパンお得意の音符読み替え技が炸裂します。変ホ長調トニカの第3音=ト音で終わらせて(おそらく7番につなぐために意図的にト音で終わらせた)、これをそのまま7番ハ長調の属音に読み替えて接続します。ちょっと強引ですが、つながるからまあいいか、という感じですね。そこから9番へつなぐために禁を破って下属調=ヘ長調の8番を書いたと思われます。せっかく長短組み合わせでペアを作っていたのに、ここにきてすべて台無しです。ショパンエチュードのCDを聴いていると、まず7番で軽く違和感を覚え(ハ長調はないでしょ変ロ長調か変ニ長調でしょ、みたいな)、さらに8番が始まるときにそこまで続いていた長 ⇒ 短のペアが崩れるので強烈ないかりや長介感(ダメだこりゃ!)が漂ってしまいます。この先は9-10が短 ⇒ 長になって長 ⇒ 短関係も破綻してしまいます。いまさら悔やんでも仕方ないことですが、平行調ペアを長短の順に並べて連続演奏、という初期コンセプトを最後まで貫いてほしかったと思います。

ということで、平均律集へのオマージュは失敗どころか盛大な自爆に終わったものの、なんとか連続演奏できる形で12曲がまとまり、音楽史上最初の演奏会用練習曲集として成立しました。よかったですね(棒読み)。だからいいんだよもう!と投げやりな感じで革命のエチュードが終わっているように聞こえるのは、わたしの気のせいでしょうか?




作品25

op.10で懲りたので長短組み合わせコンセプトは無視して、とりあえず連続演奏を重視した形になりました。そのかわり、1曲ずつの独立性を高めて、練習曲といえども個々の曲の完成度を追求しています。

op.10で見られた強引な接続はなく12曲が調性的な関連性を利用して見事な数珠つなぎになっているので、連続演奏したときの流れのよさが素晴らしいです。インターネット上で「op.25の方がop.10よりも各曲の調性的つながりが薄い」とかおかしなことを書いている人がいるのはかなり困ります。「それ違います」というメールを送ってしまおうかと思いました。みなさんも和声はちゃんと勉強しましょう。

というわけで、ちょっと読みずらいですが、和声関係を一気に列挙します。

1:変イ長調2:ヘ短調(平行調) ⇒ 3:ヘ長調(同主調) ⇒ 4:イ短調(属調平行調) ⇒ 5:ホ短調(属調⇒ホ長調終止) ⇒ 6:嬰ト短調(下属調の平行調) ⇒ 7:嬰ハ短調(下属調) ⇒ 8:変ニ長調(同主調) ⇒ 9:変ト長調(下属調) ⇒ 10:ロ短調(前曲の同主調=嬰へ短調の下属調。前曲の終止音の変トを嬰ヘに読み替えて、嬰へ音から開始。エンハーモニックつながり。) ⇒ 11:イ短調(下属調の下属調=ドッペルサブドミナント) ⇒ 12:ハ短調(平行調の同主調)

9番 ⇒ 10番 ⇒ 11番 ⇒ 12番、この怒涛の連続に痺れます。この4曲は絶対セットで作曲してます。12番、大洋のエチュードが始まる瞬間のカタルシスがハンパないです。そして最後はハ長調=作品10の第1曲と同じ調性に転調して堂々と終わる!カックイイ~~~~!!

「計画通り(ニヤリ)」というショパン先生の顔が思い浮かびますね。


          計画通り




総括

でも、op.10は計画倒れに終わってるからそれほど自慢できないはずですね。それにいくらなんでもこんなに悪い表情じゃないと思います(笑)。「計画通り」で画像検索するとこればかりなのでつい(汗)。

そもそも黒鍵のエチュードなんか書かなきゃよかったんだよなあ。コンセプトと無関係な遊びをするから流れを壊すんじゃヴォケ、という感じです。ショパン先生も後悔してたっぽいけどね。前奏曲集でリベンジしたからいいようなものの、です。

練習曲集は「難しすぎて弾けない」とか当時のピアニストやピアノ教師が言ったらしいけれど、自らの下手クソぶり(というかピアニズム的な応用力の低さ)を露呈しただけではないかと思います。あとop.10の瑕疵に関しては音楽学者から「より一層の研鑽を求める」とか言われてました。まあ当然かと思います。フランツ・リストやハンス・フォン・ビューローがこの練習曲集を絶賛したので、その影響がずっと残って21世紀でもこの曲集を神聖視する人が多いですが、それは買いかぶりすぎというもの。

最後にもういちど結論:op.10の全部がダメってわけじゃないけど、ショパンにしてはちょっと失敗作よね。


おまけですが、フランツ・リストがショパンの前奏曲集を真似して全ての調性を揃えた練習曲集を書こうとしました。つまりショパンエチュード超えを狙ったのですが、12曲(ちょうど半分)で挫折しました。なかなか愉快な逸話だと思います。調性の順番が前奏曲集の逆回りなのがかっこいいと思います。リストのショパン愛はとどまるところをしらないな(笑)。この練習曲集はもちろん、「超絶技巧練習曲 S.139」として世界中で演奏されていることはもういうまでもありません。

練習曲集を作るのって、難しいんだね!ドビュッシーはよくがんばったね!偉い!

ショパンエチュードop.10およびop.25の目的

ショパンが考えたと思われるエチュードop.10およびop.25の目的を列挙します。

  • それそれの指の役割分担の明確化=5本の指の平均化を目指さない
  • 役割を分担できるだけの各指の独立性の獲得
  • 鍵盤に対する指の位置や角度の微調整による常に最適なフィギュレーション獲得
  • 上記に関連して、弾きやすいフィギュレーションを維持するために主に手首と肘の使い方の工夫
  • 幅広い音域を無理なくつかむ指間の拡大
  • さまざまなタッチの使い分けによる繊細で豊かな音色表現
  • さまざまなカンタービレの使い分けによる歌曲的な旋律表現
  • 「音楽の中心≠演奏技術の中心」の徹底。難しいパッセージほど難しくないように聞かせる。
  • 面白くないものを面白く。難しいものも面白く。愛らしく。楽しく。切なく。情感豊かに。
  • バッハの平均律集のような素晴らしい曲集を作りたい!

これらの要素が単一でなく1曲のなかに必ず複数、しかも並行して、渾然一体となって存在するのがショパンエチュードの最大の特徴です。それまでのエチュードは、練習目的は1曲あたりただ1つしかないのが基本でした。複数あったとしても、同時並行する練習曲は非常に稀なものでした。そのためどうしても味気なく、面白みに欠ける曲想になりがちでした。ショパンは1曲に対して複数の練習課題を盛り込むことで、練習曲を単なる練習としての存在を越えて誰でも楽しめて、なおかつ奥深い芸術性を持った楽曲へと変貌させたのです。

おそらく少年時代のショパンは、師に薦められるままクレメンティのパルナッスムやバッハの平均律集を弾きながら「練習曲とはなぜこれほどまでに味気のないものだろう」「バッハのプレリュードやフーガはこんなにも面白いのに」と日々思っていたはずです。味気のない練習曲をどのようにしたら弾いても聴いても楽しい曲にできるのか。それに対する明確かつ決定的な回答が、この2つの練習曲集です。このアイディアがなければ、のちの大作曲家がこぞって作った演奏会用練習曲は生まれえなかった、といえます。ショパンはさまざまなジャンルのピアノ曲の創生を行っていますが、20代の初めにいきなり演奏会用練習曲というジャンルを確立してしまいました。史上初の演奏会用練習曲集が、同時に史上最高の演奏会用練習曲集となったことに異論のある人はいないでしょう。ショパンは史上初かつ史上最高、というジャンルをほかに2つ作っています。スケルツォとバラードです。これだけを取っても作曲家としてのショパンの偉大さがわかろうというものです。

では、上記のような練習課題をどのように各曲に盛り込んだのか、少し述べてみます。たとえば・・・

  • 似たような音型の連続で運動性の獲得目的の練習であっても、構成音が少し変化しただけで全く異なるフィギュレーションを取らないと弾ききるのが困難になる曲。
  • 10度以上の幅広いアルペジョを連続して弾かせ、なおかつ内声まで含めた緻密なタッチ制御を要求する曲。
  • 片手だけで旋律と伴奏を同時に演奏させることで指の独立性とカンタービレな演奏表現を同時に習得させる曲。
  • 片手で常動的で技巧的な伴奏や装飾を奏でさせ、一方の手で悠然とカンタービレな旋律を演奏させ、テクニックを完全に音楽の外に追い出してしまう、しかし高度なテクニックがなければ音楽として成立しえない曲。
  • 素早く困難な跳躍を伴うパッセージを伴奏とし、別の手でこれまたカンタービレな旋律+対旋律を5本の指で分担させて弾く曲。
  • 信じられないほど多数の音符を1小節に詰め込み、ピアニスティックな表現の幅を極限まで拡大しつつ、拍節感を保つ曲。
  • 演奏困難な重音をさまざまなアーティキュレーションで奏することで刻々と移り変わる柔軟なフィギュレーション変化を身につけると同時に、各指の独立を促す曲。

・・・などなど。これを読んですぐ「ははーん、あの曲だな」と思い浮かぶ人もいると思います。


さて、ここまでくれば、この練習曲集の本当の目的は明らかです。

「真のテクニックは、ただひたすら、音楽のために!」


この言葉はカール・ツェルニー先生が自著で書いている言葉です。あの無味乾燥なツェルニーのエチュードも、豊かな音楽表現のためにはどうしても必要なのでした。




※出所不明な情報

ショパンのピアノ協奏曲が演奏困難といわれたので、ピアノ協奏曲から特に弾きにくいと思われるパッセージを抽出した練習曲集を作って、多くのピアニストに弾いてもらおうという裏の目的もあったと言われています。

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さまざまな版が収録されており、演奏指示などの記述がバラバラで混乱するので、きちんと勉強したい人にはおすすめできない。
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英仏独3カ国の初版譜が比較できる。演奏指示などの記述がバラバラ(以下略)なので、調べものをしたい人向け(英語)
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自筆譜が確認できる。読みずらいがちょっとした確認をしたいときに非常に便利。アクセント記号やsf&fzで迷ったらここ(英語)


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ショパン自筆譜ファクシミリ
PWM。随時追加される模様。op.10の一部が散逸していて全曲揃わないのが非常に残念。(英語)

amazonショパン楽譜@洋書カテ
ヘンレ版
ヤマハ等の店頭で買うより安価
ドーヴァー版
やはり店頭より安価。楽譜サイズに注意。ミニサイズのものが混ざってます。

その他
ファツィオリ
近年ロルティが録音に使用しているピアノ。スタインウエイとはまた違った魅力。
シャンドス
ロルティのCDを発売しているレーベル(英語)
NationalEdition.com
ナショナル・エディション総本山(英語)
国際ショパン協会
ショパンコンクール主催(英語)
日本ショパン協会
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